深海

前が見えず、息もできず、心拍数は上昇を続ける

視覚も聴覚も嗅覚も、主要な五感はまるで機能しない

自ずと触覚に全神経が集中していく

目には見えない眼前の様相を、必死になって模索する

固い感触と柔らかい感触

経験にない感触に、触覚がざわめきたつ

何度かの試行を繰り返すうちに、呼吸が乱れてくる

物惜しみながら未知の感触を手放し、浮上を始める

深い闇の中を抜けて、一つ息をついた